青木の出京その55
作品:青木の出京
作者:菊池寛
が、一週間と経ち、十日と経つうちに、青木はまた元のように慎ましい生活を強いられているようであった。それは、雄吉にとっては忘れられない四月の十一日の晩であった。晩餐を済すと、青木は「ちょっと散歩してくる」といって出ていったまま、なかなか帰って来なかった。雄吉はただ一人、春の宵にありがちな不思議な憂鬱に襲われて、ぼんやり机にもたれていると、後の襖が、音も無く開かれたと思うと、聞き馴れた小間使いの声がして、
底本:「菊池寛 短篇と戯曲」文芸春秋
1988(昭和63)年3月25日第1刷発行
入力:真先芳秋
校正:林めぐみ
1999年1月6日公開
2005年10月17日修正
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