青木の出京その57
作品:青木の出京
作者:菊池寛
「はあ」と答えると、雄吉は気軽に立ち上った。また、いつものように、到来物の礼状でも書かされるのだなと思いながら、長い廊下を通って、主人の部屋へ行った。いつもは、微笑を含みながら、雄吉を迎える主人が、にこりともしないで、苦り切ったまま座っているので、雄吉はいささか勝手が違いながら、座って礼をした。すると、主人は、「はなはだ不快な用事だが」といいながら、その膝の上に置いてあった紙入から、小さい紙片を取り出して、雄吉の目の前に押しやりながら、
底本:「菊池寛 短篇と戯曲」文芸春秋
1988(昭和63)年3月25日第1刷発行
入力:真先芳秋
校正:林めぐみ
1999年1月6日公開
2005年10月17日修正
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