青木の出京その98
作品:青木の出京
作者:菊池寛
「俺は貴様の恩人だぞ、貴様の没落を救ってやった恩人だぞ。俺のいうことに文句はあるまいな」と、いったような意識が、青木に対する雄吉の態度の底に、いつも滔々《とうとう》として流れていた。青木は、雄吉のそうした態度から来る圧迫を避けるためであったろう。教室へ出ている時にも、なるべく雄吉と話をすることを避けた。雄吉が、それを怨み憤ったのは、もとよりであった。二人の間には、大きな亀裂《ギャップ》が口をあけ始めていた。
底本:「菊池寛 短篇と戯曲」文芸春秋
1988(昭和63)年3月25日第1刷発行
入力:真先芳秋
校正:林めぐみ
1999年1月6日公開
2005年10月17日修正
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