青木の出京その3
作品:青木の出京
作者:菊池寛
雄吉は食事を済した後ののんびり[#「のんびり」に傍点]とした心持に浸っていた。その上、彼はこの頃ようやく自分を見舞いかけている幸運を意識し、享楽していた。長い間認められなかった彼の創作が、ようやく文壇の一角から採り入れられて、今まではあまり見込みの立たなかった彼の前途が、明るい一筋の光明によって照され始めていた。彼の心にはある一種の得意と、希望とが混じりながら存在していた。ことに、彼は自分の暗かった青年時代を回想すると、謙遜な心で今の幸運を享受することができた。
底本:「菊池寛 短篇と戯曲」文芸春秋
1988(昭和63)年3月25日第1刷発行
入力:真先芳秋
校正:林めぐみ
1999年1月6日公開
2005年10月17日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
次>>
-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)行き交《こ》うている
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)自分の崇敬|措《お》く能わざる
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)のんびり[#「のんびり」に傍点]
-------------------------------------------------------