青木の出京その115
作品:青木の出京
作者:菊池寛
「ああ変らないよ」と、青木は答えた。その声は、昔の青木と少しも変らないように、雄吉にとっては威圧的に響いた。二人はまた黙ってしまった。雄吉は、友達の噂でも話してみようと思った。が、クラスのうちの誰も、皆立派に成功の道に辿りついていて、誰の噂をしても、青木に対して当てつけがましくきこえないのはなかった。雄吉は、やっと岡本という男のことを思い出した。その男は、大学を出るのも、一年遅れた上に、大学を出てからも、職業がなくてぶらぶらしていた。この男の噂なら、青木を傷つけることはないと思った。
底本:「菊池寛 短篇と戯曲」文芸春秋
1988(昭和63)年3月25日第1刷発行
入力:真先芳秋
校正:林めぐみ
1999年1月6日公開
2005年10月17日修正
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