青木の出京その105
作品:青木の出京
作者:菊池寛
「君は、青木のことをちっとも知るまいな。あいつはこの頃大変だぜ。すっかり遊蕩児になりきってしまってね。友人の品物を無断で持ち出すやら、金を借り倒すやら大変だ。近藤さんのうちも、とうとうお払い箱さ。なんでも、近藤さんのうちの貴金属をずいぶん持ち出して、売り飛ばしていたんだってね。あいつのは、まるきりでたらめなんだ。後で露見しようがしまいが、そんなことは平気なんだ。あいつは悪事をやるのまでが天才的だ、という評判だよ。……今だから、いってもいいが、あいつは君が近藤さんのうちを出た時に、何か君が悪いことをやったように、僕たちの間に触れ回っていたよ。僕たちは、むろんそれを、少しも信じなかったがね」といった。
底本:「菊池寛 短篇と戯曲」文芸春秋
1988(昭和63)年3月25日第1刷発行
入力:真先芳秋
校正:林めぐみ
1999年1月6日公開
2005年10月17日修正
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